# vectorの実装 : メモリー確保
# メモリー確保と解放の起こるタイミング
std::vector
はどこでメモリーを確保と解放しているのだろうか。
デフォルト構築すると空になる。
int main()
{
std::vector<int> v ;
v.empty() ; // true
}
コンストラクターに要素数を渡すことができる。
int main()
{
std::vector<int> v(100) ;
v.size() ; // 100
}
するとstd::vector
は指定した要素数の有効な要素を持つ。
コンストラクターに要素数と初期値を渡すことができる。
int main()
{
std::vector<int> v(100, 123) ;
v[0] ; // 123
v[12] ; // 123
v[68] ; // 123
}
すると、指定した要素数で、要素の値はすべて初期値になる。
vector
のオブジェクトを構築したあとでも、メンバー関数resize(size)
で要素数をsize
個にできる。
int main()
{
std::vector<int> v ;
v.resize(10) ;
v.size() ; // 10
// 減らす
v.resize(5) ;
v.size() ; // 5
}
resize
で要素数が増える場合、増えた要素の初期値も指定できる。
int main()
{
std::vector<int> v ;
v.resize(3, 123) ;
// vは{123,123,123}
}
resize
で要素数が減る場合、末尾が削られる。
int main()
{
std::vector<int> v = {1,2,3,4,5} ;
v.resize(3) ;
// vは{1,2,3}
}
メンバー関数push_back(value)
を呼び出すと要素数が1増え、要素の末尾の要素が値value
になる。
int main()
{
std::vector<int> v ;
// vは{}
v.push_back(1) ;
// vは{1}
v.push_back(2) ;
// vは[1,2}
v.push_back(3) ;
// vは{1,2,3}
}
reserve(size)
は少なくともsize
個の要素が追加の動的メモリー確保なしで追加できるようにメモリーを予約する。
int main()
{
std::vector<int> v ;
// 少なくとも3個の要素を追加できるように動的メモリー確保
v.reserve(3) ;
v.size() ; // 0
v.capacity() ; // 3以上
// 動的メモリー確保は発生しない
v.push_back(1) ;
v.push_back(2) ;
v.push_back(3) ;
// 動的メモリー確保が発生する可能性がある。
v.push_back(3) ;
}
clear()
は要素数を0にする。
int main()
{
std::vector<int> v = {1,2,3} ;
v.clear() ;
v.size() ; // 0
}
この章ではここまでの実装をする。
# デフォルトコンストラクター
簡易vector
のデフォルトコンストラクターは何もしない。
vector( ) { }
何もしなくてもポインターはすべてnullptr
で初期化され、アロケーターもデフォルト構築されるからだ。
これで簡易vector
の変数を作れるようになった。ただしまだ何もできない。
int main()
{
vector<int> v ;
// まだ何もできない。
}
# アロケーターを取るコンストラクター
std::vector
のコンストラクターは最後の引数にアロケーターを取れる。
int main()
{
std::allocator<int> alloc ;
// 空
std::vector<int> v1(alloc) ;
// 要素数5
std::vector<int> v2(5, alloc) ;
// 要素数5で初期値123
std::vector<int> v3(5, 123, alloc) ;
}
これを実装するには、アロケーターを取ってデータメンバーにコピーするコンストラクターを書く。
vector( const allocator_type & alloc ) noexcept
: alloc( alloc )
{ }
ほかのコンストラクターはこのコンストラクターにまずデリゲートすればよい。
vector()
: vector( allocator_type() )
{ }
vector( size_type size, const allocator_type & alloc = allocator_type() )
: vector( alloc )
{ /*実装*/ }
vector( size_type size, const_reference value, const allocator_type & alloc = allocator_type() )
: vector( alloc )
{ /*実装*/ }
# 要素数と初期値を取るコンストラクターの実装
要素数と初期値を取るコンストラクターはresize
を使えば簡単に実装できる。
vector( size_type size, const allocator_type & alloc )
: vector( alloc )
{
resize( size ) ;
}
vector( size_type size, const_reference value, const allocator_type & alloc )
: vector( alloc )
{
resize( size, value ) ;
}
しかしこれは実装をresize
に丸投げしただけだ。resize
の実装をする前に、実装を楽にするヘルパー関数を実装する。
# ヘルパー関数
ここではvector
の実装を楽にするためのヘルパー関数をいくつか実装する。このヘルパー関数はユーザーから使うことは想定しないので、private
メンバーにする。
// 例
struct vector
{
private :
// ユーザーからは使えないヘルパー関数
void helper_function() ;
public :
// ユーザーが使える関数
void func()
{
// ヘルパー関数を使って実装
helper_function() ;
}
} ;
# ネストされた型名traits
アロケーターはallocator_traits
を経由して使う。実際のコードはとても冗長になる。
template < typename Allocator >
void f( Allocator & alloc )
{
std::allocator_traits<Allocator>::allocate( alloc, 1 ) ;
}
この問題はエイリアス名を使えば解決できる。
private :
using traits = std::allocator_traits<allocator_type> ;
template < typename Allocator >
void f( Allocator & alloc )
{
traits::allocate( alloc, 1 ) ;
}
# allocate/deallocate
allocate(n)
はアロケーターからn
個の要素を格納できる生のメモリーの動的確保をして先頭要素へのポインターを返す。
deallocate(ptr)
はポインターptr
を解放する。
private:
pointer allocate( size_type n )
{ return traits::allocate( alloc, n ) ; }
void deallocate( )
{ traits::deallocate( alloc, first, capacity() ) ; }
# construct/destroy
construct(ptr)
は生のメモリーへのポインターptr
にvector
のvalue_type
型の値をデフォルト構築する。
construct(ptr, value)
は生のメモリーへのポインターptr
に値value
のオブジェクトを構築する。
void construct( pointer ptr )
{ traits::construct( alloc, ptr ) ; }
void construct( pointer ptr, const_reference value )
{ traits::construct( alloc, ptr, value ) ; }
// ムーブ用
void construct( pointer ptr, value_type && value )
{ traits::construct( alloc, ptr, std::move(value) ) ; }
ムーブ用のconstruct
についてはまだ気にする必要はない。この理解には、まずムーブセマンティクスを学ぶ必要がある。
destroy(ptr)
はptr
の指すオブジェクトを破棄する。
private :
void destroy( pointer ptr )
{ traits::destroy( alloc, ptr ) ; }
# destroy_until
destroy_until(rend)
は、vector
が保持するrbegin()
からリバースイテレーターrend
までの要素を破棄する。リバースイテレーターを使うので、要素の末尾から先頭に向けて順番に破棄される。なぜ末尾から先頭に向けて要素を破棄するかというと、C++では値の破棄は構築の逆順で行われるという原則があるからだ。
private :
void destroy_until( reverse_iterator rend )
{
for ( auto riter = rbegin() ; riter != rend ; ++riter, --last )
{
destroy( &*riter ) ;
}
}
&*riter
はやや泥臭い方法だ。簡易vector<T>
のiterator
は単なるT *
だが、riter
はリバースイテレーターなのでポインターではない。ポインターを取るために*riter
でまずT &
を得て、そこに&
を適用することでT *
を得ている。
破棄できたら有効な要素数を減らすために--last
する。
# clear
clear()
はすべての要素を破棄する。
void clear() noexcept
{
destroy_until( rend() ) ;
}
先ほど実装したdestroy_until(rend)
にリバースイテレーターの終端を渡せばすべての要素が破棄される。
# デストラクター
ヘルパー関数を組み合わせることでデストラクターが実装できるようになった。
std::vector
のデストラクターは、
- 要素を末尾から先頭に向かう順番で破棄
- 生のメモリーを解放する
この2つの処理はすでに実装した。デストラクターの実装は単にヘルパー関数を並べて呼び出すだけでよい。
~vector()
{
// 1. 要素を末尾から先頭に向かう順番で破棄
clear() ;
// 2. 生のメモリーを解放する
deallocate() ;
}
# reserveの実装
reserve
の実装は生の動的メモリーを確保してデータメンバーを適切に設定する。
ただし、いろいろと考慮すべきことが多い。
現在のcapacity
より小さい要素数がreserve
された場合、無視してよい。
int main()
{
// 要素数5
std::vector<int> v = {1,2,3,4,5} ;
// 3個の要素を保持できるよう予約
v.reserve( 3 ) ;
// 無視する
}
すでに指定された要素数以上に予約されているからだ。
動的メモリー確保が行われていない場合、単に動的メモリー確保をすればよい。
int main()
{
std::vector<int> v ;
// おそらく動的メモリー確保
v.reserve( 10000 ) ;
}
「おそらく」というのは、C++の規格はvector
のデフォルトコンストラクターが予約するストレージについて何も言及していないからだ。すでに要素数10000を超えるストレージが予約されている実装も規格準拠だ。本書で実装しているvector
は、デフォルトコンストラクターでは動的メモリー確保をしない実装になっている。
有効な要素が存在する場合、その要素の値は引き継がなければならない。
int main()
{
// 要素数3
std::vector<int> v = {1,2,3} ;
// 1万個の要素を保持できるだけのメモリーを予約
v.reserve( 10000 ) ;
// vは{1,2,3}
}
つまり動的メモリー確保をしたあとに、既存の要素を新しいストレージにコピーしなければならないということだ。
まとめよう。
- すでに指定された要素数以上に予約されているなら何もしない
- まだ動的メモリー確保が行われていなければ動的メモリー確保をする
- 有効な要素がある場合は新しいストレージにコピーする
古いストレージから新しいストレージに要素をコピーするとき、古いストレージと新しいストレージが一時的に同時に存在しなければならない。
疑似コード風に記述すると以下のようになる。
template < typename T >
void f()
{
// すでに動的確保した古いストレージ
auto old_ptr = new T ;
// いま構築した新しいストレージ
auto new_ptr = new T ;
// 古いストレージから新しいストレージにコピー
// *new_ptr = *old_ptr ;
// 古いストレージを解放
delete old_value ;
}
このとき、T
型がコピーの最中に例外を投げると、後続のdelete
が実行されなくなる。この問題に対処して例外安全にするために、C++20に入る見込みの標準ライブラリ、std::scope_exit
を使う。
template < typename T >
void f()
{
// すでに動的確保した古いストレージ
auto old_ptr = new T ;
// いま構築した新しいストレージ
auto new_ptr = new T ;
// 関数fを抜けるときに古いストレージを解放する。
std::scope_exit e( [&]{ delete old_ptr ; } ) ;
// 古いストレージから新しいストレージにコピー
// *new_ptr = *old_ptr ;
// 変数eの破棄に伴って古いストレージが解放される
}
これを踏まえてreserve
を実装する。
void reserve( size_type sz )
{
// すでに指定された要素数以上に予約されているなら何もしない
if ( sz <= capacity() )
return ;
// 動的メモリー確保をする
auto ptr = allocate( sz ) ;
// 古いストレージの情報を保存
auto old_first = first ;
auto old_last = last ;
auto old_capacity = capacity() ;
// 新しいストレージに差し替え
first = ptr ;
last = first ;
reserved_last = first + sz ;
// 例外安全のため
// 関数を抜けるときに古いストレージを破棄する
std::scope_exit e( [&]{
traits::deallocate( alloc, old_first, old_capacity ) ;
} ) ;
// 古いストレージから新しいストレージに要素をコピー構築
// 実際にはムーブ構築
for ( auto old_iter = old_first ; old_iter != old_last ; ++old_iter, ++last )
{
// このコピーの理解にはムーブセマンティクスの理解が必要
construct( last, std::move(*old_iter) ) ;
}
// 新しいストレージにコピーし終えたので
// 古いストレージの値は破棄
for ( auto riter = reverse_iterator(old_last), rend = reverse_iterator(old_first) ;
riter != rend ; ++riter )
{
destroy( &*riter ) ;
}
// scope_exitによって自動的にストレージが破棄される
}
ここではまだ学んでいないムーブの概念が出てくる。これはムーブセマンティクスの章で詳しく学ぶ。
# resize
resize(sz)
は要素数をsz
個にする。
int main()
{
// 要素数0
std::vector<int> v ;
// 要素数10
v.resize(10) ;
// 要素数5
v.resize(5)
// 要素数変わらず
v.resize(5)
}
resize
は呼び出し前より要素数を増やすことも減らすこともある。また変わらないこともある。
要素数が増える場合、増えた要素数の値はデフォルト構築された値になる。
struct X
{
X() { std::cout << "default constructed.\n" ; }
} ;
int main()
{
std::vector<X> v ;
v.resize(5) ;
}
このプログラムを実行すると、"default constructed.\n"
は5回標準出力される。
resize(sz, value)
はresize
を呼び出した結果要素が増える場合、その要素をvalue
で初期化する。
int main()
{
std::vector<int> v = {1,2,3} ;
v.resize(5, 4) ;
// vは{1,2,3,4,4}
}
要素数が減る場合、要素は末尾から順番に破棄されていく。
struct X
{
~X()
{ std::cout << "destructed.\n"s ; }
} ;
int main()
{
std::vector<X> v(5) ;
v.resize(2) ;
std::cout << "resized.\n"s ;
}
このプログラムを実行すると、以下のように出力される。
destructed.
destructed.
destructed.
resized.
destructed.
destructed.
最初のv.resize(2)
で、v[4], v[3], v[2]
が書いた順番で破棄されていく。main
関数を抜けるときに残りのv[1], v[0]
が破棄される。
resize(sz)
を呼び出したときにsz
が現在の要素数と等しい場合は何もしない。
int main()
{
// 要素数5
std::vector<int> v(5) ;
v.resize(5) ; // 何もしない
}
まとめるとresize
は以下のように動作する。
- 現在の要素数より少なくリサイズする場合、末尾から要素を破棄する
- 現在の要素数より大きくリサイズする場合、末尾に要素を追加する
- 現在の要素数と等しくリサイズする場合、何もしない
実装しよう。
void resize( size_type sz )
{
// 現在の要素数より少ない
if ( sz < size() )
{
auto diff = size() - sz ;
destroy_until( rbegin() + diff ) ;
last = first + sz ;
}
// 現在の要素数より大きい
else if ( sz > size() )
{
reserve( sz ) ;
for ( ; last != reserved_last ; ++last )
{
construct( last ) ;
}
}
}
要素を破棄する場合、破棄する要素数だけ末尾から順番に破棄する。
要素を増やす場合、reserve
を呼び出してメモリーを予約してから、追加の要素を構築する。
sz == size()
の場合は、どちらのif
文の条件にも引っかからないので、何もしない。
size(sz, value)
は、追加の引数を取るほか、construct( iter )
の部分がconstruct( iter, value )
に変わるだけだ。
void resize( size_type sz, const_reference value )
{
// ...
construct( iter, value ) ;
// ...
}
これで自作のvector
はある程度使えるようになった。コンストラクターで要素数を指定できるし、リサイズもできる。
int main()
{
vector<int> v(10, 1) ;
v[2] = 99 ;
v.resize(5) ;
// vは{1,1,99,1,1}
}
# push_back
push_back
はvector
の末尾に要素を追加する。
int main()
{
std::vector<int> v ;
// vは{}
v.push_back(1) ;
// vは{1}
v.push_back(2) ;
// vは{1,2}
}
push_back
の実装は、末尾の予約された未使用のストレージに値を構築する。もし予約された未使用のストレージがない場合は、新しく動的メモリー確保する。
追加の動的メモリー確保なしで保持できる要素の個数はすでに実装したcapacity()
で取得できる。push_back
は要素を1つ追加するので、size() + 1 <= capacity()
ならば追加の動的メモリー確保はいらない。逆に、size() + 1 > capacity()
ならば追加の動的メモリー確保をしなければならない。追加の動的メモリー確保はすでに実装したreserve
を使えばよい。
void push_back( const_reference value )
{
// 予約メモリーが足りなければ拡張
if ( size() + 1 > capacity() )
{
// 1つだけ増やす
reserve( size() + 1 ) ;
}
// 要素を末尾に追加
construct( last, value ) ;
// 有効な要素数を更新
++last ;
}
これは動く。ただし、効率的ではない。自作のvector
を使った以下のような例を見てみよう。
int main()
{
// 要素数10000
vector<int> v(1000) ;
// 10001個分のメモリーを確保する
// 10000個の既存の要素をコピーする
v.push_back(0) ;
// 10002個分のメモリーを確保する
// 10001個の既存の要素をコピーする
v.push_back(0) ;
}
たった1つの要素を追加するのに、毎回動的メモリー確保と既存の全要素のコピーをしている。これは無駄だ。
std::vector
はpush_back
で動的メモリー確保が必要な場合、size()+1
よりも多くメモリーを確保する。こうすると、push_back
を呼び出すたびに毎回動的メモリー確保と全要素のコピーを行う必要がなくなるので、効率的になる。
ではどのくらい増やせばいいのか。10個ずつ増やす戦略は以下のようになる。
void push_back( const_reference value )
{
// 予約メモリーが足りなければ拡張
if ( size() + 1 > capacity() )
{
// 10個増やす
reserve( capacity() + 10 ) ;
}
construct( last, value ) ;
++last ;
}
しかしこの場合、以下のようなコードで効率が悪い。
int main()
{
std::vector<int> v ;
for ( auto i = 0 ; i != 10000 ; ++i )
{
v.push_back(i) ;
}
}
10個ずつ増やす戦略では、この場合に1000回の動的メモリー確保と全要素のコピーが発生する。
上のような場合、vector
の利用者が事前にv.reserve(10000)
とすれば効率的になる。しかし、コンパイル時に要素数がわからない場合、その手も使えない。
int main()
{
std::vector<int> inputs ;
// 要素数は実行時にしかわからない
// 10万個の入力が行われるかもしれない
std::copy(
std::ostream_iterator<int>(std::cin),
std::ostream_iterator<int>(),
std::back_inserter(inputs) ) ;
}
よくある実装は、現在のストレージサイズの2倍のストレージを確保する戦略だ。
void push_back( const_reference value )
{
// 予約メモリーが足りなければ拡張
if ( size() + 1 > capacity() )
{
// 現在のストレージサイズ
auto c = size() ;
// 0の場合は1に
if ( c == 0 )
c = 1 ;
else
// それ以外の場合は2倍する
c *= 2 ;
reserve( c ) ;
}
construct( last, value ) ;
++last ;
}
size()
は0
を返す場合もあるということに注意。単にreserve(size()*2)
としたのではsize() == 0
のときに動かない。
# shrink_to_fit
shrink_to_fit()
はvector
が予約しているメモリーのサイズを実サイズに近づけるメンバー関数だ。
本書で実装してきた自作のvector
は、push_back
時に予約しているメモリーがなければ、現在の要素数の2倍のメモリーを予約する実装だった。すると以下のようなコードで、
int main()
{
vector<int> v ;
std::copy( std::istream_iterator<int>(std::cin), std::istream_iterator<int>(),
std::back_inserter(v) ) ;
}
ユーザーが4万個のint
型の値を入力した場合、65536個のint
型の値を保持できるだけのメモリーが確保されてしまい、差し引きsizeof(int) * 25536
バイトのメモリーが未使用のまま確保され続けてしまう。
メモリー要件の厳しい環境ではこのようなメモリーの浪費を避けたい。しかし、実行時にユーザーから任意の個数の入力を受けるプログラムを書く場合には、push_back
を使いたい。
こういうとき、shrink_to_fit
はvector
が予約するメモリーを切り詰めて実サイズに近くする、かもしれない。「かもしれない」というのは、C++の標準規格はshrink_to_fit
が必ずメモリーの予約サイズを切り詰めるよう規定してはいないからだ。
自作のvector
では必ず切り詰める実装にしてみよう。
まず予約するメモリーを切り詰めるとはどういうことか。現在予約しているメモリーで保持できる最大の要素数はcapacity()
で得られる。実際に保持している要素数を返すのはsize()
だ。するとsize() == capacity()
になるようにすればいい。
vector<int> v ;
// ...
v.shrink_to_fit() ;
v.size() == v.capacity() ; // trueにする
shrink_to_fit()
を呼んだとき、すでにsize() == capacity()
がtrue
である場合は、何もしなくてもよい。
それ以外の場合は、現在の有効な要素数分の新しいストレージを確保し、現在の値を新しいストレージにコピーし、古いメモリーは破棄する。
void shrink_to_fit()
{
// 何もする必要がない
if ( size() == capacity() )
return ;
// 新しいストレージを確保
auto ptr = allocate( size() ) ;
// コピー
auto current_size = size() ;
for ( auto raw_ptr = ptr, iter = begin(), iter_end = end() ;
iter != iter_end ; ++iter, ++raw_ptr )
{
construct( raw_ptr, *iter ) ;
}
// 破棄
clear() ;
deallocate() ;
// 新しいストレージを使う
first = ptr ;
last = ptr + current_size ;
reserved_last = last ;
}
この実装はreserve
と似ている。
# vectorのその他のコンストラクター
# イテレーターのペア
std::vector
はイテレーターのペアを取り、その参照する値で要素を初期化できる。
int main()
{
std::array<int, 5> a {1,2,3,4,5} ;
std::vector<int> v( std::begin(a), std::end(a) ) ;
// vは{1,2,3,4,5}
}
これはすでに実装したメンバー関数を使えば簡単に実装できる。
template < typename InputIterator >
vector( InputIterator first, InputIterator last, const Allocator & = Allocator() )
{
reserve( std::distance( first, last ) ;
for ( auto i = first ; i != last ; ++i )
{
push_back( *i ) ;
}
}
# 初期化リスト
std::vector
は配列のように初期化できる。
int main()
{
std::vector<int> v = {1,2,3} ;
}
このような初期化をリスト初期化と呼ぶ。
リスト初期化に対応するためには、std::initializer_list<T>
を引数に取るコンストラクターを追加する。
template < typename T, Allocator = std::allocator<T> >
{
// コンストラクター
vector( std::initializer_list<value_type> init, const Allocator & = Allocator() ) ;
// 省略...
} ;
std::initializer_list<T>
はT
型の要素を格納する標準ライブラリで、{a,b,c,...}
のようなリスト初期化で構築することができる。
std::initializer_list<int> init = {1,2,3,4,5} ;
std::initializer_list
はbegin/end
によるイテレーターを提供しているので、すでに実装したコンストラクターにデリゲートすればよい。
vector( std::initializer_list<value_type> init, const Allocator & alloc = Allocator() ) ;
: vector( std::begin(init), std::end(init), alloc )
{ }
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