# 最近体重が気になるあなたのための標準入力
# これまでのおさらい
ここまで学んできた範囲でも、かなりのプログラムが書けるようになってきた。試しにちょっとプログラムを書いてみよう。
最近肥満が気になる読者は、肥満度を把握するためにBMI(Body Mass Index)を計算して出力するプログラムを書くことにした。
BMIの計算は以下のとおり。
$$ BMI = \frac{体重_{kg}}{身長^2_{m}} $$
本書をここまで読み進めた読者ならば、このようなプログラムは簡単に書けるだろう。計算は小数点以下の値を扱う必要があるために、変数は浮動小数点数型(double
)にする。掛け算はoperator *
で、割り算はoperator /
だ。出力にはstd::cout
を使う。
int main()
{
// 身長1.63m
double height = 1.63 ;
// 体重73kg
double mass = 73.0 ;
// BMIの計算
double bmi = mass / (height*height) ;
// BMIの出力
std::cout << "BMI="s << bmi << "\n"s ;
}
結果は"27.4756"
となった。これだけでは太っているのか痩せているのかよくわからない。調べてみると、BMIの数値と肥満との関係は以下の表のとおりになるそうだ。
BMI 状態
18.5未満 痩せすぎ(Underweight) 18.5以上、25未満 普通(Normal) 25以上、30未満 太り気味(Overweight) 30以上 肥満(Obese)
ではさっそく、この表のようにBMIから肥満状態も出力してくれるように、プログラムを書き換えよう。
int main()
{
// 身長1.63m
double height = 1.63 ;
// 体重73kg
double mass = 73.0 ;
// BMIの計算
double bmi = mass / (height*height) ;
// BMIの出力
std::cout << "BMI="s << bmi << "\n"s ;
// 状態の判定をする関数
auto status = []( double bmi )
{
if ( bmi < 18.5 )
return "Underweight.\n"s ;
else if ( bmi < 25.0 )
return "Normal.\n"s ;
else if ( bmi < 30.0 )
return "Overweight.\n"s ;
else
return "Obese."s ;
} ;
// 状態の出力
std::cout << status(bmi) ;
}
ここまで問題なく読むことができただろうか。ここまでのコードはすべて、本書を始めから読めば理解できる機能しか使っていない。わからない場合、この先に進む前に本書をもう一度始めから読み直すべきだろう。
# 標準入力
上のプログラムには実用にする上で1つ問題がある。身長と体重の値を変えたい場合、ソースコードを書き換えてコンパイルしなければならないのだ。
例えば読者の身長が1.8mで体重が80kgの場合、以下のように書き換えなければならない。
int main()
{
// 身長1.63m
double height = 1.80 ;
// 体重73kg
double mass = 80.0 ;
// BMIの計算
double bmi = mass / (height*height) ;
// BMIの出力
std::cout << "BMI="s << bmi << "\n"s ;
}
すると今度は身長が1.48mで体重が48kgの人がやってきて私のBMIも計測しろとうるさい。しかも昨日と今日で体重が変わったからどちらも計測したいと言い出す始末。
こういうとき、プログラムのコンパイル時ではなく、実行時に値を入力できたならば、いちいちプログラムをコンパイルし直す必要がなくなる。
入力にはstd::cin
を使う。std::cout
は標準出力を扱うのに対し、std::cin
は標準入力を扱う。std::cout
がoperator <<
を使って値を出力したのに対し、std::cin
はoperator >>
を使って値を変数に入れる。
int main()
{
// 入力を受け取るための変数
std::string x{} ;
// 変数に入力を受け取る
std::cin >> x ;
// 入力された値を出力
std::cout << x ;
}
実行結果、
$ make run
hello
hello
標準入力はデフォルトでは、プログラムを実行したユーザーがターミナルから入力する。上の実行結果の2行目は、ユーザーの入力だ。
std::cin
は入力された文字列を変数に入れる。入力は空白文字や改行で区切られる。そのため、空白で区切られた文字列を渡すと、以下のようになる。
$ make run
hello world
hello
入力は複数取ることができる。
int main()
{
std::string x{} ;
std::string y{} ;
std::cin >> x >> y ;
std::cout << x << y ;
}
実行結果、
$ make run
hello world
helloworld
空白文字は文字列の区切り文字として認識されるので変数x
, y
には入らない。
std::cin
では文字列のほかにも整数や浮動小数点数、bool
を入力として得ることができる。
int main()
{
// 整数
int i{} ;
std::cin >> i ;
// 浮動小数点数
double d{} ;
std::cin >> d ;
}
実行結果、
$ make run
123 1.23
数値はデフォルトで10進数として扱われる。
bool
の入力には注意が必要だ。普通に書くと、ゼロがfalse
, 非ゼロがtrue
として扱われる。
int main()
{
bool b{} ;
std::cin >> b ;
std::cout << std::boolalpha << b << "\n"s ;
}
実行結果、
$ make run
1
true
$ make run
0
false
$ make run
123
true
$ make run
-1
true
"true"
, "false"
という文字列でtrue
, false
の入力をしたい場合、std::cin
にstd::boolalpha
を「入力」させる。
int main()
{
// bool型
bool b{} ;
std::cin >> std::boolalpha >> b ;
std::cout << std::boolalpha << b ;
}
実行結果
$ make run
true
true
$ make run
false
false
std::boolalpha
を入出力するというのは、実際には何も入出力しないので奇妙に見えるが、そういう設計になっているので仕方がない。
では標準入力を学んだので、さっそくBMIを計算するプログラムを標準入力に対応させよう。
int main()
{
// 身長の入力
double height{} ;
std::cout << "height(m)>" ;
std::cin >> height ;
// 体重の入力
double mass{} ;
std::cout << "mass(kg)>" ;
std::cin >> mass ;
double bmi = mass / (height*height) ;
std::cout << "BMI=" << bmi << "\n"s ;
}
上出来だ。
# リダイレクト
標準入出力が扱えるようになれば、もう自分の好きなプログラムを書くことができる。プログラムというのはけっきょく、入力を得て、処理して、出力するだけのものだからだ。入力はテキストだったりグラフィックだったり何らかの特殊なデバイスだったりするが、基本は変わらない。
たとえば読者はまだC++でファイルを読み書きする方法を知らないが、標準入出力さえ使えれば、ファイルの読み書きはリダイレクトを使うだけでできるのだ。
int main()
{
std::cout << "hello" ;
}
これは"hello"
と標準出力するだけの簡単なプログラムだ。このプログラムをコンパイルしたプログラム名をprogram
としよう。標準出力の出力先はデフォルトで、ユーザーのターミナルになる。
$ ./program
hello
リダイレクトを使えば、この出力先をファイルにできる。リダイレクトを使うには"プログラム \> ファイル名"
とする。
$ ./program > hello.txt
$ cat hello.txt
hello
ファイルへの簡単な書き込みは、リダイレクトを使うことであとから簡単に実現可能だ。
リダイレクトはファイルの読み込みにも使える。例えば先ほどのBMIを計算するプログラムを用意しよう。
// bmi
int main()
{
double height{ } ;
double mass { } ;
std::cin >> height >> mass ;
std::cout << mass / (height*height) ;
}
このプログラム名をbmi
として、通常どおり実行すると以下のようになる。
$ ./bmi
1.63
73
27.4756
このうち、1.63
と73
はユーザーによる入力だ。これを毎回手で入力するのではなく、ファイルから入力することができる。つまり以下のようなファイルを用意して、
1.63
73
このファイルを例えば、"bodymass.txt"
とする。手で入力する代わりに、このファイルを入力として使いたい。これにはリダイレクトとして"プログラム名 \< ファイル名"
とする。
$ ./bmi < bodymass.txt
27.4756
リダイレクトの入出力を組み合わせることも可能だ。
$ cat bodymass.txt
1.63
73
$ ./bmi < bodymass.txt > index.txt
$ cat index.txt
27.4756
もちろん、このようなファイルの読み書きは簡易的なものだが、かなりの処理がこの程度のファイル操作でも行えるのだ。
# パイプ
プログラムが出力した結果をさらに入力にすることだってできる。
例えば、先ほどのプログラムbmi
に入力するファイルbodymass.txt
の身長の単位がメートルではなくセンチメートルだったとしよう。
163
73
この場合、プログラムbmi
を書き換えて対処することもできるが、プログラムに入力させる前にファイルを読み込み、書き換えて出力し、その出力を入力とすることもできる。
まず、身長の単位をセンチメートルからメートルに直すプログラムを書く。
// convert
int main()
{
double height{} ;
double mass{} ;
std::cin >> height >> mass ;
// 身長をセンチメートルからメートルに直す
// 体重はそのままでよい
std::cout << height/100.0 << "\n"s << mass ;
}
このプログラムをconvert
と名付け、さっそく使ってみよう。
$ ./convert
163
73
1.63
73
身長の単位がセンチメートルからメートルに正しく直されている。
これをリダイレクトで使うとこうなる。
$ ./convert < bodymass.txt > fixed_bodymass.txt
$ ./bmi < fixed_bodymass.txt
27.4756
しかしこれではファイルが増えて面倒だ。この場合、パイプを使うとスッキリと書ける。
パイプはプログラムの標準出力をプログラムの標準入力とするの使い方は、"プログラム名 | プログラム名"
だ。
$ ./convert < bodymass.txt | ./bmi
27.4756
ところで、すでに何度か説明なしで使っているが、POSIX規格を満たすOSにはcat
というプログラムが標準で入っている。cat ファイル名
は指定したファイル名の内容を標準出力する。標準出力はパイプで標準入力にできる。
$ cat bodymass.txt | ./convert | ./bmi
27.4756
# プログラムの組み合わせ
現代のプログラミングというのは、すでに存在するプログラムを組み合わせて作るものだ。もし、自分の必要とする処理がすでに実装されているのであれば、自分で書く必要はない。
例えば、読者はまだカレントディレクトリー下のファイルの一覧を列挙する方法を知らない。しかしPOSIX規格を満たすOSにはls
というカレントディレクトリー下のファイルの一覧を列挙するプログラムが存在する。これを先ほどまでBMIの計算などの作業をしていたディレクトリー下で実行してみよう。
$ ls
all.h all.h.gch bmi bodymass.txt convert data main.cpp Makefile program
ファイルの一覧が列挙される。そしてこれはプログラムls
による標準出力だ。標準出力ということは、リダイレクトしてファイルに書き込んだり、パイプで別のプログラムに渡したりできるということだ。
$ ls > files.txt
$ ls | ./program
標準入出力が扱えれば、ネットワークごしにWebサイトをダウンロードすることもできる。これにはほとんどのGNU/LinuxベースのOSに入っているcurl
というプログラムを使う。
$ curl https://example.com
プログラムcurl
は指定されたURLからデータをダウンロードして、標準出力する。標準出力するということは、パイプによって標準入力にできるということだ。
$ curl https://example.com | ./program
読者はC++でネットワークアクセスする方法を知らないが、すでにネットワークアクセスは可能になった。
ほかにも便利なプログラムはたくさんある。プログラミングの学び始めはできることが少なくて退屈になりがちだが、読者はもうファイルの読み書きやネットワークアクセスまでできるようになったのだから、退屈はしないはずだ。